第10章 lt laid the rail
「あの人との結婚が…俺の為…?」
父さんは…俺と目を合わせずに真っ直ぐに前を向いている。
翔父「………正式に決まってから話すつもりだったが…」
「………何…」
翔父「………自民党から…出馬要請がきている」
「は…?」
出馬…要請…?
翔父「安部総理と姪御とお前が一緒になれば…最高の後ろ楯になる」
「………」
頭が…グラグラする。
翔父「それにお前も…総務省に入っていずれはと…思った。だから彼女との結婚が最適なんだ」
「つまり…父さんは…自分の為に…息子の俺を…売ったの…?」
翔父「売ったなどと…言葉を慎みなさい」
「………売ったんだろ。自分が政界に出たいから…俺を売ったんだろ!最低…!最低だよ!」
翔父「もういい。今のお前と話をしても無駄だったな」
溜め息を付いて父さんは車を降りた。
「待てよ!父さん!」
俺の言葉を無視して父さんはスタスタと歩いた。
「俺は父さんのいいなりにはならないよ!父さんの言う事ばかり聞くのはもう沢山だ!!」
翔父「何…?」
父さんがゆっくり振り返る。
「父さん…。父さんがそこまで自分の都合を押し付けるのなら俺だって…言ってやる。俺は…今付き合ってる人がいるんだ。だからお見合いも結婚も真っ平後免だ。だって…相手は男なんだから」
感情に任せて俺は…大声でカミングアウトしてしまった。
翔父「何だと…?」
「聞こえただろ。あんたの息子は男と付き合ってるんだよ。男!男が好きなんだよ!!」
翔父「………ふざけるな!!」
父さんが戻って来たかと思ったら…俺の頬に思いきり拳を振り降ろした。
その勢いで俺は地面に倒れた。
影山「翔様!」
影山が俺に駆け寄る。
翔父「親を馬鹿にするのもいい加減にしろ。こっちは真剣に話してるのに…男が好きだと!?冗談でもそんな汚らわしい事は言うな!!」
「………汚らわしい…?」
翔父「暫くお前の顔は見たくない。頭を冷やせ」
そのまま父さんは…俺を置いて家の中へと消えた。
影山「………翔様…」
「顔見たくないのは…お互い様だよ…お互い様…」
大粒の涙を流しながら…俺は地面の砂利を掴んだ。