第10章 lt laid the rail
ー翔sideー
安部総理との会食の日。
俺は父さんと一緒に予約された料亭へとやって来た。
普段あまり緊張しない俺だけど…この日ばかりは違った。
「はぁ…」
翔父「さっきから何度目だ翔」
「ごめんなさい。緊張して…」
翔父「大丈夫だから」
「分かってるけど…」
翔父「自信を持て。期待してるぞ」
「………はい」
父さんの言葉に…俺は驚いた。
こんな言葉…今まで殆ど掛けてくれた事なんて無かったのに…。
褒めて…くれてる?
『自慢に思うからこそ…安部総理との会食に同行させるのではありませんか?』
影山の言葉を思い出す。
そうだ…。
きっとそう思ってくれてる…。
だから…頑張ろう…。
女将「失礼致します」
襖の扉が開き、女将さんが入って来る。
女将「安部総理が到着されました」
その言葉を聞いて父さんは立ち上がる。
俺も父さんの隣で立ち上がる。
複数の足音が…こちらに向かって来る。
来た…。
そして…SPだろうか。
数人の人達に囲まれながら…安部総理が中へと入って来た。
翔父「総理。ご無沙汰しております」
安部総理「櫻井くん。久し振り」
気さくな笑顔で…目の前に立ち父さんと握手を交わす安部総理。
その隣には…奥さんじゃない。
俺と年の変わらない女性が立っていた。
誰…?
翔父「息子の翔です」
父さんの言葉で慌てて我に返り、安部総理と視線を交わす。
「あ…初めまして。息子の翔です」
安部総理「初めまして。安部です。優秀な息子さんだと聞いているよ」
「いえ、そんな…」
安部総理「翔くん。この子は私の姪の美樹だ」
………姪…?
「初めまして。櫻井翔です…」
美樹「初めまして。安部美樹です」
にっこりと笑顔で…その子は俺にお辞儀をする。
安部総理「仲良くしてあげてくれ」
「は、はい…」
翔父「素敵なお嬢さんですな。美樹さん。翔を宜しく」
美樹「はい」
「………?」
どういう事…?
これって…。
俺がその事態を飲み込むのに…そう時間は掛からなかった。