第9章 友達と恋人の境界線
ー影山sideー
そっと寝室に入ると…翔様は静かに寝息を立てて眠っていた。
泣きつかれたのだろう。
瞼がしっかりと腫れていた。
起きない様に…冷たく冷やしたハンカチを瞼にあてがう。
翔「ん…」
「寝顔は…昔と変わらない…」
思わず笑みが漏れてしまう。
私がここに来たのは…翔様が産まれて間もなくだったか…。
女の子と間違う程の愛らしいお子様だった。
亡くなった奥様に瓜二つで…。
それからずっと翔様を見ていた。
旦那様の立場を理解し、旦那様に逆らった事など一度も無く、立派にお育ちになられた。
その翔様が…今、感情のままに生きようとしている。
………大野智…。
関東昇龍会次期会長、大野守の息子…大野智。
よりによって…大野守の息子と…恋仲になるとは。
しかしその恋も長くは続かず…直ぐに終わってしまった。
大野智が翔様を捨てた。
翔様はそう思ってる。
しかし…恐らくそれは違う。
きっと…大野智は知ってしまった。
彼の父が…何をやったのかを…。
そして…翔様の為を思って離れた。
今翔様は…幼馴染みの相葉様とお付き合いされてる。
しかし大野智を忘れられずに葛藤している。
私は…翔様に何が出来るのだろうか。
翔様をお守りする執事として…。
今はただ…見守る事しか出来ない。
守る事しか…。
ハンカチを取り、翔様の柔らかい髪をそっと撫でた。