第1章 夜明け前
「何でこんなに早く帰って来んだよもう…」
影山「警察庁長官との会食のご予定が先方の予定が変わられたとか。それで今日はご自宅で夕食をと」
「そっか…何ヵ月振りかなぁ。父さんと夕食食べるの」
影山「5ヵ月…でございますか」
「そんなに…」
俺は部屋のソファーに横になり、影山は俺の荷物をテキパキと片付けている。
「はぁーあ…」
本棚に整頓された参考書や辞書をぼんやりと見つめる。
内部受験まで…あと3ヶ月か…。
俺の父さんは…警察のトップ、警視総監という大きな肩書きを持った人。
警察庁に入った時からエリートで…異例の速さで出世した。
そんな父の背中を見て育った…長男の俺は…小さい頃からいつか父さんを越えたいと、ずっとそう思ってきた。
何の疑問も持たずに…幼稚舎から慶應義塾大学の付属に通って…小、中、高と過ごしてきた。
いつからか…報道の仕事に就けたらと思い描く様になり、そのまま慶應義塾大学の経済学部に進もうと決めた。
外部受験よりハードルの高い内部受験。
俺は夢を叶える為に…必死に勉強してきた。
でもたまに…息苦しくなる時がある。
どうしてだろう…何故か…深い…海の底でもがいてる様な、そんな気分になる。
けれど今は…頑張らなきゃいけないんだ。
後3ヶ月…受験を乗り越えればゆっくり出来る。
それに俺は…警視総監の息子。
父さんの顔を潰しちゃいけない。
俺は自分を一生懸命奮い立たせた。