第1章 夜明け前
「ただいまー」
執事「お帰りなさいませ翔様」
「ただいま」
伸びをしながら専属の執事・影山に鞄を渡す。
そのまま俺は部屋に向かおうと螺旋階段に足を掛ける。
影山「翔様」
「ん?」
影山「申し上げ難いのですが…旦那様がお帰りになられてます」
「え…」
影山「翔様が戻ったら…書斎に連れて来る様にと…仰せつかっております」
「マジか…分かった」
俺は方向転換をし、影山と一緒に1階の奥にある書斎へと足を運んだ。
影山「旦那様。翔様がお戻りになられました」
ノックして返事を伺う。
翔父「入りなさい」
静かな声が聞こえる。
「………失礼します」
ゆっくりと俺は大きなその扉を押した。
「………ただいま帰りました」
翔父「………何処に行ってた?」
1番奥の机で書類を整理しながら…父さんは俺を見つめた。
「………雅紀と…会ってました。ハンバーガーを…」
翔父「………やはり寄り道か」
ため息を付きながら…父さんは立ち上がる。
翔父「今が…大事な時期なんだと何度言わせるんだ?翔」
「………すみません…」
俺は父さんに向かって深く頭を下げた。
翔父「そんなだから模試の成績も下がるんだ。自覚はあるのか?」
「………」
翔父「影山」
父さんの視線が…後方の影山に移る。
影山「はい」
翔父「優秀なお前を翔専属の執事にしたのはお遊びじゃないぞ?お前が付いてて何やってる」
影山「申し訳ございません」
振り返ると…影山は深々と頭を下げていた。
「父さん!影山は悪くない。俺が悪いんです!影山は何も知らない!」
翔父「一端の口を聞くな」
「………父さん…」
翔父「………お前を束縛するのは気が進まなかったから登下校は自由にさせていたんだがな。こうなったら…仕方無い。影山。明日から翔の送り迎えをする様に」
「え…!」
影山「かしこまりました」
「待って父さん…!」
翔父「受験が終わるまでだ。文句があるなら次のも模試で結果を出しなさい。話はそれだけだ」
「………」
父さんは机に戻り、仕事の続きを再開した。
………こうなった父さんには逆らえない。
俺は…唇を噛み締めながら自分の部屋に戻って行った。