第5章 Ardent Love
ー翔sideー
初めてだった。
影山のあんな顔を見るのは。
あんな形相の影山…見た事ない。
影山「翔様離れて下さい!」
「え、え!?」
影山が智くんに駆け寄りながら…胸ポケットから小振りのナイフを出すのが見えた。
「か、影山!」
俺は慌てて2人に駆け寄ろうとしたけれど…その前に勝負はあっさりついてしまった。
影山「………!」
智「ごめん…急にナイフ出されたからとっさに…」
智くんがナイフを持つ影山の腕を掴み、そのまま瞬時に背後に回った。
「智くんごめんなさい。影山は俺の執事だから…俺を守ろうとしただけ。影山…驚かせてごめん。智くんは悪い人じゃない。俺の…俺の…」
その次に続く言葉が…恥ずかしくて口ごもってしまう。
すると、影山から手を離した智くんが…俺を抱き寄せた。
智「彼氏。恋人。どっちでもいいよ」
ふにゃと微笑んだ。
「えと…こ、恋人…」
影山「………恋人…?」
乱れた服を整えながら影山が智くんを睨み付ける。
「あのほら…離したでしょ?この間雅紀と行った学祭で…キス…した人」
影山「その方が何故ゆえここに?」
「たまたまここの警備員のバイトに来てたんだよ。それで…付き合う事に…なった…」
「………成る程。では…背中のその刺青は…どう説明して頂けますか?」
「関係ないよ。俺…もう智くんの事好きなんだよ。智くんも…好きだって言ってくれた。だから…刺青なんてどうでもいい」
影山「………」
智「………」
智くんと影山が…黙って見つめ合う。
そしてようやく、影山がナイフをポケットに仕舞った。
影山「………かしこまりました。ただひとつだけ…お聞かせ願いたい」
智「何ですか?」
影山「………お名前を。お聞かせ願いたい。どちらの団体の方が…把握させて頂きたい」
智「………関東昇龍会支部。大野組です。父は大野組組長、大野守。おいらはその息子、大野智」
智くんがそう告げると…影山の眉間に皺が寄る。
影山「………大野組…」
「影山…知ってるの?」
影山「………いえ…」
直ぐにいつもの影山に戻り、眼鏡を直す。
影山「そろそろ会場に戻られて下さい。大野様も…お仕事に」
そして俺達は元の場所に戻る事になった。