第5章 Ardent Love
ー翔sideー
『翔くん合格おめでとう』
「ありがとうございます」
『経済学部か。素晴らしいな』
「そんな事ないです」
『お父さんも鼻が高いだろう』
「いやそんな」
『警視庁には就職しないのかい?長男なんだから親父さんの跡は継ぐんだろう?』
「それは…まだ…」
『息子が父親の跡を継いだらそれだけで嬉しいもんだよ』
「そう、ですね…」
パーティーが始まってから、ずっとこの会話の繰り返し。
今日は俺の大学の内部受験の合格祝い。
こんな盛大なパーティー…正直やりたくなかったけど…父さんの知り合いが沢山駆け付けると言われたので渋々重い腰を上げた。
さっきから広角上げ過ぎてひきつりそう…。
うんざりだ…。
影山「翔様。大丈夫でございますか?」
「ん?平気…」
影山「お疲れでしょう。この大人数ですから」
「んー…ちょっと…」
改めて見渡すと確かにかなりの大人数。
そうそうたる顔触れ。
所々に配置された警備員。
いつもは使わない300畳の大ホールが狭く感じる。
「挨拶も一通り終わったしちょっと…一息着いてから戻るよ」
影山「お供します」
「影山忙しいだろ?このパーティー仕切ってるのは影山なんだから。居なくなると困るだろ?1人でも大丈夫。ありがとう」
影山「かしこまりました。何かありましたらいつでもお呼び下さい」
「うん」
俺は影山と別れ、自分の部屋に戻ろうと大階段を上る。
受験の地獄からやっと解放された。
卒業まで少しはゆっくり出来るかなぁ…。
1番の奥の自分の部屋のノブを掴み、中に入ろうとした瞬間、横からにゅっと手が伸び俺の腕を掴む。
「え…!?」
振り返ると…帽子を目深に被った警備員だった。
「だ…誰…んん!」
いきなり口を抑えられ、部屋の扉を閉められる。
な…何!?何で!?誰!?
「んーっっ!!んんっっ!!」
暴れようとするとその男はキャップを取りながら…シーッと人差し指を唇に当てる。
「………あ…!!!」
男「………久し振り。驚かせてごめんね」
申し訳なさそうに微笑むその警備員は…俺がずっと忘れられなかったあの人だった。