第4章 それぞれの想い
ー慎吾sideー
「………マジかよそれ…」
智「マジ」
目を丸くして俺は智を見つめた。
「お前組継ぐ気ないって言ってたのに…その昇龍会の会長って関東のヤクザのボスなんだろ?」
智「………うん」
フィギアを作る手が完全に止まった俺とは真逆に智は黙々と手を動かしていた。
「粘土こねてる場合じゃないんじゃないか?松本組って…学際の時来てた奴等だろ」
智「そうだよ」
「どうすんだよ」
智「どうするって…もうなるようにしかならねぇよなぁ…」
眉を下げながら智は笑っていた。
「いいのかよ」
智「………」
ようやく智の手が止まる。
智「継ぎたくはないけどさ…どこかで思ってた部分もあった様な気がすんだよね…継がなきゃいけないって。男兄弟居ないしさ。もしおいらが無理にでも継がなかったら姉ちゃんが好きでもない男と結婚させられるかもしれないだろ。それは…可哀想じゃん」
「智…」
智「この間の引退式で言われた時さ…パニクったけど…考えたらそんだけじぃちゃんがおいらを認めてくれたって事なんかなとも思えてきてさ。それに…松本組が継いだらもう目茶苦茶になるよきっと。そう思ったら…腹くくるしかねぇんかなって」
「………お前の夢…どうすんだよ…ヤクザなんて継いじまったら…二度とできねぇぞ」
智「………分かってる」
「だったら…」
智「平気だって。今すぐに組継ぐ訳じゃなし。大学卒業まではおいらの好きにさせてもらえるから」
「いいのか」
智「うん」
「………分かった。お前がそう言うんなら何も言わねぇよ」
止めていた手を動かし、また粘土をこね始める。
智「ありがとな慎吾」
視線は粘土から離さないまま、智が呟いた。
「ん?」
智「お前だけにしか話せないからさ。こんな事。他の奴等は知らねぇから。それに…ヤクザの息子だって知っても変わらずにいてくれたのはお前だけだから…」
「ばっか。お前はお前だろ。聞いたからって何も変わらねぇよ。幼なじみだしな」
智「サンキュ」
智の拳が俺に向けて伸びる。
俺はその拳にコツンと自分の拳をぶつけた。