第20章 2人の道
長瀬「すみませんぼん。自分勝手な事言ってしまって」
「おいらは大丈夫」
暫くの沈黙の後、運転していた長瀬が口を開いた。
長瀬「………本当は…殺してやろうかと思ってました。兄貴を殺した二宮も…そうする様にしむけた松本のぼんも…」
ハンドルを握る手に力がこもる。
「何でヤらなかった?」
長瀬「………兄貴の…伝言でしたから…」
「………『お前しかいない』って…」
長瀬「自惚れてるつもりはありません。ましてや松岡の兄貴には自分がどうあがいても到底及ばないのは分かってます。でも…兄貴のあの言葉…本当に自分しか居ないんだったら…兄貴の様になりたい。もし兄貴だったら…今のあの2人には手を出したりはしないでしょうから…」
「長瀬…」
するとキィッと音を立てて車が止まる。
長瀬「すみません…。帰った後じゃ…泣けなくて…」
そう言って長瀬が目頭を押さえる。
長瀬「姉さんの事思うと…辛くて…。でも姉さんは一切表に出さない。1番辛いのは姉さんなのに…。兄貴の代わりに…組を支えたい。でも自信がありません。どうしたらいいか…」
「何言ってんだよ」
おいらより断然大きな身体を思いきり引き寄せ、抱き締める。
「お前はお前のままで良い。そのままの長瀬を見てきて…松兄も『お前しか居ない』って思ったんだろ?だから無理に松兄みたいにとか…父ちゃんみたいにとか…思わなくて良い。お前は…お前にしかない良いとこ沢山あるんだ。だから…今まで通りに…組を支えてくれたらいい。組も…姉ちゃんもな」
長瀬「………でも…」
「組も勿論だけど…これから姉ちゃんには助けが必要だ。子供には…好きな道を歩ませたいって言ってた。だから…お前が導いてやってくれ。そして姉ちゃんが助けが必要な時は…寄り添ってやってくれ。お前にしか出来ねぇよ」
長瀬「ぼん…」
「大野組を頼む」
長瀬「………はい。必ず…守ってみせます…!」
「うん」
長瀬の涙が止まるまで…おいらは長瀬に寄り添っていた。
もうこれできっと…おいらが組に出来る事は…無いのだから…。