第20章 2人の道
棺の中に居る松兄は…まるで眠っている様な安らいだ顔だった。
姉ちゃんがそっと松兄の頬に手を触れる。
「やっぱり男前だよな…松兄…」
智姉「そうでしょ?お腹の子…父親似だったら良いんだけど」
「そうだなぁ…」
智姉「………彼言ってたわ。『俺は自分が望んで大野組に入って…後悔してない。組を継がせてもらって感謝してる。だから…長男でも…自分の臨む事をして欲しい』って。貴方を見てたら余計にそう思ったんだって」
「おいら?」
智姉「自分の気持ちに正直に…大切な人と一緒に生きる事だけを望んだ純粋な貴方の様に育って欲しいって…。私もそう思ってる。だから…そう育てていくつもりよ。しっかりと」
にっこりと姉ちゃんが微笑んだ。
「………そんな…そんな松兄を…おいらのせいで…」
智姉「智違うわ」
「でも…」
智姉「彼は自分の使命を全うしたのよ。きっと後悔はしてない。昔からそうだった。組に命を預けてた。だからむしろ貴方の命を守れた事誇りに思ってるはず。そんな彼だから…私は愛したの。結婚した。後悔は…してないわ。昌宏さんと一緒になれて…幸せなの」
「姉ちゃん…」
ぽろりと…堪えきれない涙がおいらの頬を伝った。
智姉「昌宏さん…ありがとう。これからは…私と息子を…天国で見守ってて下さい」
そしてそっと…姉ちゃんが松兄にキスをする。
智姉「でも今だけは…泣かせて?良いわよね昌宏さん…」
松兄の手を握った姉ちゃんの肩が震える。
「………」
おいらは黙って後ろから…姉ちゃんを抱き締める。
智姉「っっ…ふぅっ…」
「松兄っっ…」
おいら達は…身体を寄せ合い、思いきり泣いたのだった。