第19章 引き裂かれた2人
ー智sideー
松岡「ぼん」
一晩過ごした警察署を出ると、松岡が入口で頭を下げて待っていた。
「松兄」
松岡「帰りましょう」
「………うん」
停めている車に乗り込み、おいらは警察署を後にした。
「………もう少し出られないかと思ったんだけどな」
後部座席で外を見ながらおいらはぽつりと呟いた。
松岡「………翔さんが…レイプ被害ではないと否定されて。本人が否定したので釈放だそうです。住居侵入も…父親は被害届を出したがってたみたいですが」
「………そっか…」
松岡「しかし…父親の権限として、接近禁止令を出す手続きをされてるみたいです。なのでぼん。翔さんには…」
「逢えないってか」
松岡「………はい」
「………何で…!」
思いきり助手席を後ろから蹴り飛ばす。
昨日までは…あんなに幸せだったのに。
もう離れないと…側に居れると確信したのに…。
今は…近付く事さえも…罪…。
松岡「ぼん。怪我の事もありますからとりあえず家に戻りましょう」
「………」
それきり車内には沈黙が流れた。
おいらの頭では…昨日の翔くんと過ごした時間が何度も繰り返し流れてる。
翔くんの髪の毛…肌…唇…全ての感覚がまだこの手に残ってる。
『俺を奪ってよ…智くん』
翔くんのあの言葉が脳裏を過る。
「松兄」
松岡「はい」
「また迷惑掛けたらごめんな。でも…今度が最後だから」
松岡「ぼん…?」
「接近禁止令…?上等だ。だったら無理矢理でもお前から奪ってやるよ」
松岡「ぼん…」
「これが本当に最後だ。翔くん待ってて…必ず奪いに行くよ」
窓を見つめたままおいらはぎゅっと拳を握り締めた。