第15章 愛する人の為に
影山「陽子様がここに嫁がれて来たのは…高校をご卒業されてすぐの春でした。私もこちらにお世話になり始めたばかりだったゆえ慣れない事ばかりで。そんな私にも陽子様はお優しくお声を頂いていました」
姿勢を正しながら影山さんがぽつりぽつりと話し始める。
影山「陽子様は…櫻井家の妻として…それはそれは一生懸命に務めを果たされておいででした。しかし…あの頃は旦那様もお仕事が1番大事な頃で…なかなかご一緒のお時間が取れませんでしたので…陽子様は寂しい思いをしておられました」
「上手くいってはなかったんですか?」
影山「………端から見れば…そうでございますね。陽子様も悩んでおられました。『どうすればあの人と距離を縮められるのか』と…」
「そっか…」
影山「しかし直ぐに翔様を身ごもられ…『これで少しでも彼と距離が縮まれば』とそれはお喜びになられました…しかし夫婦仲変わらずに…それは舞様が産まれても…」
「………辛かったろうね…」
影山「その分『子供には寂しい思いをさせたくない』と…子育てに全力投球でございました。本当に…一生懸命で…そんな姿を何年も見てこられて…旦那様も少しずつお気持ちがお変わりになられたんでしょうね…そんな矢先でございました。大野守……彼に再会したのは」
「………バーで…再会したってやつですか」
影山「そうでございます。それからお2人は間もなく連絡を取り合う様になり…ご友人としてお会いになられる事が増えました。しかしそれはあくまでご友人としてであり…旦那様が考えておられる様なご関係ではございませんでした」
「父も…言ってました。会うのは平日の昼間だと…。お茶をして近況を話すだけの関係だと」
影山「そうでございます。それにお2人がお会いになる時は…私も着いておりましたゆえ…確実でございます。しかし…異性と頻繁に会うという行為そのものが…旦那様のお気に触ったのでございましょう。頻繁に…陽子様に大声で…。時には…手を…」
影山さんが…ぎゅっと拳を握り締めた。