第15章 愛する人の為に
影山「どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
差し出されたコーヒーのいい香りが鼻をくすぐる。
影山「では私はこれで。旦那様がお帰りになられたらまた来ます」
頭を下げながら通された応接室から影山さんが出て行こうとした。
「あ、あの…」
影山「はい」
「えっ、と…」
影山「………」
「………影山さんは…父ちゃんと…陽子さん…翔くんのお母さんとの事…知っていたんですか?」
影山「………」
銀縁メガネがキラリと光る。
「父ちゃんから全て…聞きました。2人が幼馴染みで…ずっと愛し合っていた事。父ちゃんが陽子さんを殺したんじゃない…父ちゃんを庇って…陽子さんが亡くなったんだと…」
影山「………」
何も言わずにおいらを真っ直ぐに見つめる影山さん。
その瞳は悲しそうで…まるで…。
影山「………陽子様が櫻井の家に嫁がれて来てから私は…陽子様専属の執事として…陽子様のお側に着いておりました」
「………」
影山「………大野様。おひとつだけ…お聞かせ頂きたい」
「………はい…」
影山「心から…翔様の事を…愛しておいででございますか?陽子様の忘れ形見である翔様を…」
きっとこの人は…墓場まで持って行くつもりだろう。
自分の気持ちを…誰にも言う事はない。
でもおいらには分かる。
この人は…陽子さんを…愛してた…。
だからおいらも…この人の気持ちに…紳士に向き合おう。
「愛してます。自分の命を懸けてでも…櫻井翔という人間を…心から愛してます。もう二度と離れません。何があっても…」
影山「………」
すると一瞬だけ…影山さんが微笑んだ様な気がした。
影山「………かしこまりました。私の知る限りの事を…お話し致しましょう」