第2章 始まりのキス
「はぁっ…はぁっ…」
智「ふぅ…ここまで来れば大丈夫かな…」
「あ、あのここって…」
智「ん?大ホールのステージの下」
「ですよね…」
大きな喧騒に包まれた会場。
この上には俺もよく知ってる歌手が立ってると思うと…変な感じだった。
でもステージの下とあって…かなり薄暗い。
智「知ってる?中島美嘉」
「勿論…」
智「いい声だよねー…」
「………あの…」
智「んー?」
暗がりの中、こちらを見つめる彼。
さっきとはまた違い、最初に見た穏やかな微笑みに変わっていた。
「何で…俺もここに…」
智「あー…。何でだろう。身体が勝手に動いて…」
「勝手に?」
「うん。ごめんね」
誰も居ないステージの下。
物が乱雑に置かれた薄暗い狭い部屋で…俺達は身を寄せ合う様に座っていた。
たった…5分程前に知り合った人と。
そう思うと…可笑しかった。
「ふふっ」
俺が笑うと彼も笑った。
それと同時に…曲が変わる。
「あ…この曲…」
智「あーおいら好きだこの歌。何だっけ」
「えと…『雪の華』?」
智「そうそう。いいよね」
静かに響くバラード曲。
俺達は暫く無言で曲に聞きいっていた。
サビの部分にきた時ふと、隣の彼を見つめた。
視線に気付いた彼も…俺を見つめた。
「………」
智「………」
その瞬間、俺の心が…鷲掴みにされた気持ちになった。
その瞳に…吸い込まれる。
すると…ゆっくりと彼の手が俺の頬に触れる。
細く…長い綺麗な指。
どちらからとも無く…俺達はそのまま顔を寄せ合った。
「ん…」
『雪の華』を聞きながら…俺はゆっくりと瞼を閉じた。