第14章 父と母の恋
「でもさ…父ちゃん」
智父「ん?」
「翔くんのお母さんとは…想い合ってたけれど…恋人同士って事じゃなかったんだろ?」
智父「まぁ、そうだな」
「どうして…翔くんのお母さん…亡くなる時父ちゃんと居たの?」
智父「ある時偶然にな…会ったんだ。私は組の奴等数人と…陽子は…櫻井と…夜のバーでな」
翔「バー…」
智父「その時は…挨拶を交わした程度で終わったんだが…それからだな。2人きりで逢う様になったのは。2人きりといっても…昼間にお茶をして…話をするだけの…そんな関係だった。しかし櫻井には…それは通用しなかったみたいだな」
翔「………そういえば…」
「ん?」
翔「小さかったからあまり覚えてないけど…いつからかな…母さんよく俺と妹の事抱き締めて泣いてた」
「………辛かったんだな…」
智父「翔くん。私も陽子も…家庭を壊すつもりは毛頭無かった。陽子は…必死で櫻井の事を愛そうとしていたんだ。私は少しでも彼女の力になれば…それでよかったんだ。それだけは…分かって欲しい」
翔「はい…」
智父「でも私は…彼女と逢う内に…我慢が効かなくなってしまっていた。健気な彼女の姿…愛のない結婚をしても愛を育もうと頑張る彼女を見て…やはり私にはこの人しかいないんだと…だから…つい言ってしまった。『子供も全て責任取る。だから…俺と一緒になってくれ』と」
翔「………母は…何て…」
智父「………『その言葉を…ずっと待ってた』と…」
翔「………」
いつしか翔くんの手がおいらの手を握り、おいらもその手をしっかりと握り返していた。
智父「そしてあの日あの時間…ホテルのロビーで待ち合わせをしていた。けれど…陽子は…」
父ちゃんの拳に…ぎゅっと力が籠った。