第14章 父と母の恋
ー翔sideー
「父がご迷惑お掛けして…すみません」
智父「いや。父親として当然の事だ。君が謝る事はない」
俺がずっと頭を下げていると…智くんのお父さんに顔を上げる様に促される。
松岡「櫻井さん。これで顔冷やして下さい」
部屋を出ていた松岡さんが俺に絞ったタオルを差し出してくれた。
智「少し腫れてる…。大丈夫?」
タオルを受け取った智くんが顔を冷やしてくれた。
「あ、ありがと…」
智父「………」
俺達の様子を…黙って智くんのお父さんは見つめていた。
以前会った時の圧のある表情ではなく…優しく見守る様な表情で…。
智「父ちゃん何翔くんばかり見てんの」
智父「いや…」
智「あのさ父ちゃん…何かおいら達に隠し事してるだろ」
智父「何がだ」
智「………翔くんのお母さんと何かあったんだろ?」
智父「………」
智「父ちゃんは言ったよな。『櫻井俊の妻は俺が殺した』って。父ちゃんの撃った銃が…翔くんのお母さんに当たったって」
智父「………」
俺は2人の会話を静かに聞いていた。
智「あの時は頭に血が上って深く考えなかったけど…一般人の居る様な場所でそんな事しないだろ。少なくとも父ちゃんはそんな人じゃない」
翔「智くん…」
智「それにさっき翔くんのお母さんの事…陽子って呼び捨てにしたよな」
「俺も…思いました。殺した人間の名前知ってたとしても…下の名前呼び捨てなんて…」
智「父ちゃん。本当に…父ちゃんは翔くんのお母さんを殺したのか?何かおいら達の知らない事実が…そこにあるんじゃないか?」
智父「………」
松岡「ぼん。その事は…」
智父「松岡。もういい」
松岡「………はい」
智父「ぼーっとしている様に見えて…ちゃんと見えるんだなお前には」
智「ぼーっとは余計だよ」
少し微笑んだ後、智くんのお父さんは…話し始めた。
智父「………陽子は…私の腕の中で…死んだ。私が受ける筈だった銃弾を…代わりに受けて…」