第10章 lt laid the rail
ー翔sideー
「ほら、暴れるな修」
修「にぃちゃんくすぐったぁい♪」
「はいはい。よし、ほら帽子被って」
玄関で修に真新しい帽子を被せてランドセルを背負わせる。
「よしオッケー」
修「にぃちゃんだっこ!」
「はいはい」
両手を広げる修を抱っこする。
俺の大学入学と同時に修も小学校に上がった。
俺も通った慶應の附属幼稚舎は大学の通り道だから…暫くは修と一緒に送ってもらう事になる。
桐子「修。お兄さんの言う事聞くのよ」
修「はーい!」
桐子「翔さん毎日すみません」
「いえ。じゃあ行って来ます」
桐子「行ってらっしゃい」
その時奥から父さんが玄関に向かって歩いて来る。
桐子「あなた。今日は早いのね」
「ああ。ちょっと本庁から呼び出されてな」
桐子「そう。お気を付けて」
あれから…父さんと顔を合わせるのは初めてだ。
お見合いの日からもう10日。
お互い避ける様に接していた。
「………いってらっしゃい」
そろそろ話をしないと、と…静かに声を掛ける。
けれど…。
翔父「修おはよう。気を付けて学校に行くんだぞ」
修「はぁい!パパいってらっしゃい!」
翔父「行って来ます」
俺には見せた事のない優しい微笑みを修には見せていた。
桐子さんが心配そうに交互に俺達を見つめる。
「………あの…父さ…」
翔父「今夜は外で食べてくるから。先に済ませてなさい」
桐子「あ、はい…」
翔父「行ってくる」
桐子「いってらっしゃい…」
俺の方を一度も見る事無く…父さんは家を出て行った。
桐子「翔さん…」
「………平気です。じゃあ行って来ます」
修「ママいってきまーす!」
桐子「い、いってらっしゃい…」
心配そうな桐子さんに笑顔で返し…俺と修も家を出た。
奥歯をグッと噛み締めながら…。