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【刀剣乱舞】守護者の恋

第8章 本丸の最期


瞳を開ければ、薄暗い部屋で布団をかけられて眠っていたことに気づく。
夜なのか。
体を起こせば、開け放たれた障子の外で三日月が縁側に座って月を見ている姿があった。
「起きたかい」
「ありがとうございます……夜になってしまったのですね」
「一日半寝ていたのだよ」
「えっ!?」
「気持ちが張り詰めていたのだろうね」
「ずっと、そこに?」
「いや」
月明かりに照らされた三日月は、鎮痛剤が切れていたのだろう、またも僅かに苦しそうに見える。
「別れを告げようと思ってね。このまま話も出来ず消えるしかないのかと思いながら、桜を見ていたのだよ」
「……え」
「昨晩はちんつうざいとやらで痛みが薄くなって、数日ぶりに深く眠ったのだが、眠ったままここから意識が離れそうになってな」
束穂はどうしてよいかわからず立ち上がった。が、また軽い目眩に襲われて足元がふらつく。
「無理はしないでおくれ。もはや俺には両腕を差し出せる力が残っておらぬ」
「み、かづ、きさん」
「痛みは、生きている証なのだなあ、生物というものは大変なものだ。体も、心も」
畳の上に膝をぺたりとついて、束穂は彼を見た。
何度泣けば良いのだろうか。泣いても何一つ状況は変わらないのに。
それでも両眼からはまた涙が溢れだして、それを止めることがどうにも出来ない。
「泣くことはない。楽しい時間であった」
「そのまま、刀に戻ったら、刀身はどうなるのです」
「さあ?ヒビでも入ってしまうのかな?どうなのだろう。誰もわかるはずがなかろう。そのまま時が過ぎれば、どのように保管されていようがいつか折れるのかもしれぬ」
「そんな……」
「二度はなかろう。本当に、楽しく、美しい時間であった」
三日月は、束穂を見ながらゆらりと立ち上がった。
美しい時間。そうだっただろうか。束穂は言葉を失って彼の姿を呆然と見る。
自分は彼のように、あの日々を美しい時間だと言えるだろうか。こんな後悔と悲しみが待っていた時間を。
「い……」
行かないでください。
そんな言葉が喉元までせり上がったけれど、ぐっと力を入れて喉を締める。
「聡明な女子であった。ありがたし」
そして。
三日月は決して束穂に近寄らず、庭を振り返って。
そのまま、音もなく、消えて。
こらえきれなくなった束穂の嗚咽だけが、最期を迎えた本丸に響いた。
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