第4章 近づく距離(2)
燭台切と長谷部は縁側に座り、束穂は障子を少し開けてそこから半身を見せる程度。決して並んで座らないことが彼女らしいと二人は思う。
「これから来る刀の誰かに顔を見せたくないのだろうかとか、では、その刀には顔を見せていたのだろうか、過去にここ以外の場所で刀と出会っていたのだろうかとか。当たっていようが外れていようが、そんな風にみなは勘ぐる」
長谷部はあえて加州の話はしないで、まるで世間話をするかのように月を見ながら言葉を続けた。
「だが、それだけでは本丸の外に決して出ないことと結びつかない。色々な事情があるのだろうと思うしか出来ないが……詮索の次は身の上の心配だ」
「心配?」
「いらぬ節介だろうに、どいつもこいつも好奇心から始まった勘ぐりが最後には心配へと変わる」
話がどうも見えない、と束穂は困ったように長谷部の背を見た。けれど、彼は束穂の方を見ない。その様子に苦笑いを見せる燭台切。
「僕らの勝手なんだけどね。こんなに世話になっているのに、僕らが知らない秘密みたいなものがあって……きっと力になれないと感じるからどうしようもないんだけど」
縁側に座ったまま背後の束穂の方へ上半身を伸ばす燭台切。
「顔を見ればまだこんなに若くて、本当はこんなに軽装で一人の時間を過ごしているのに、朝から晩まで顔や体型を隠すような格好で過ごさなければいけないなんて、僕らには何か出来ることが、ああ、いや、出来ることは多分ないだろうとさっき言ったけども……」
「燭台切さん」
「正しく言葉にすることは、難しいね。長谷部くん」
「言葉なぞ、使ったこともなかったからな」
長谷部は燭台切の言葉に否定をせず、少しぶっきらぼうに相槌をうった。
束穂は少しの間悩み、そして、ようやく思い切って口を開く。
「細かい説明はしたくないのですが、いくつも理由があるんです」
その言葉に、長谷部もついに振り返った。
「言いたくなければ、言わなくても」
いいんだぞ、と続けようとした長谷部の言葉を遮って、束穂は一気に言葉にする。
「わたしが顔を隠すのは、刀のみなさんに対して隠したいという思いと、不特定の、わたしの力を利用しようとする者から隠れたいという思い、それから、わたしの顔から過去を辿って、わたしがいるこの場所が特別な場所だと知られることが怖いからです」
第3-4章完
