第4章 近づく距離(2)
審神者の部屋はふすまを隔てた二つ続きになっており、奥に寝室、手前がいつもいる部屋となっている。
様子を見るために「いつもの部屋」に束穂は毛布を用意して泊まることに決めた。
今は本丸は現代にあるため、審神者が元気になるまでは出陣ができない。ようやく落ち着いた加州が皆に告げ、明日の主の様子を見てまた朝食時にでも話し合うことになった。
「ひとまず、髪を乾かしたらどうだい」
熱を下げるには水と手ぬぐいが必要だ、と気を利かせて持ってきてくれた燭台切が束穂にいう。
ヘアクリップでまとめたため、生乾きになっている髪は確かに気にはなっていた。
離れに戻るのは少し審神者の様子が気になるため、本丸の洗面所を借りることに決めた。
刀達は審神者の件も落ち着かないが、当然彼女が顔を出しているということで「見ちゃいけないけどでも見たいし……」と部屋で幾分ざわつきながら待機しているようだった。
いつもの本丸ならば、そろそろ短刀達が寝る準備をする頃だが、そのせいかみんな「どうしよう」といった空気が流れている。それを、束穂もいくらか気づいていた。
ドライヤーで髪を乾かした後、審神者の様子を見て、額に乗せた手ぬぐいを取り換える。うなされるようなら、氷枕を用意しようと思う。
ブラシを借りるのも気が引けて、手櫛で髪をまとめて再び軽くヘアクリップで結いあげる。
それから、心を決め、刀達が一番多く集まっている居間に向かった。
「失礼します」
障子ごしに声をかけると、中にいた刀達が息をのむように静かになったのがわかる。
廊下で正座をした状態で、束穂は障子を開けた。
「夜分に申し訳ございません。束穂です。少し皆様にお話をさせていただきたくて」
「何」
慌てて加州が駆け寄って来て
「いいの?顔」
「明日からはまた隠させていただきますが、今日のところは」
「あ、そう」
今ここにいる彼らに顔を見られても問題はない。この先、ここに来るかもしれないあの三振以外には。束穂はそう思った。
同じ三条の今剣、岩融、それから気になっているのは三日月とともにいたことがあるらしい(らしいというのは本人の記憶がないからだ)骨喰などだが、だれも束穂の顔の造作を細かく人に説明するようなたちではないと思える。だから、明日からまた頭巾をかぶれば、と心をくくった。