第3章 近づく距離
「えっ、もしかして束穂……??」
和紙で囲われている小さなルームランプだけの薄暗い部屋。そこで審神者の枕元に座っていた加州は一瞬だけぽかんとして、それから小声で告げた。
「ありがと……すごく急いでくれたんだろ?」
決して、頭巾がどうの、顔がどうのと言わない察しのよさに束穂は救われた気持ちになった。
「少しばかり。髪が濡れているので、あまり近付かないでくださいね」
「そんなの」
気にしない、とは言葉にせず、自分がいた場所を束穂に譲る。
束穂は審神者の額、首筋に手を当てて
「ああ、ひどい熱ですね……流行りのウィルス性のものではなさそうですけれど」
「お医者さん呼べないの?」
「この時間だと来てもらうことが出来ないため、深夜診療のところに連れて行くしかないんですが、わたしは付き添えない身なので……」
確かにそうだ。刀達が付き添って医者の話を聞いても、もし込み入った話ではわからず判断も出来ないだろう。
「この方が所属しているところに連絡すれば専属の医師が来ると思うのですが、夜は受け付けていないんです。でも、これは多分医者に行かなくても良いものだと思います」
「……束穂か?」
その時うっすらと審神者が瞳を開いて、掠れた声を発した。
「はい。凄い熱ですよ。苦しいでしょう……風邪ですか?突然倒れたと聞いたので、副作用の方ですか」
「ああ……悪い……副作用の方……ちょっと、力を使いすぎた……」
はあ、はあ、と荒い息をしながら、体を少し横にまげて束穂の顔を見ようとする審神者。
「わかりました。どれぐらいかかりそうですか」
「この様子ならニ日ぐらいで熱は下がって、少し寝ていれば……三日程度か……」
その先はぼそぼそと束穂にしか聞こえない程度の音量で伝えると、再び審神者は瞳を閉じて意識を閉ざした。