第3章 近づく距離
束穂は大体何歳くらいなんだろう。
その話題は誰も答えがわからないため意味がなかったが、本丸に新しい刀がやってくれば、そのうち自然な疑問としてぽろりとこぼす、俗に言う「よくある質問」というやつだった。
声音はいつも落ち着いているけれど、声の高さはそう低くない。動きを見ていれば若いことはわかるけれど、では何歳かと言われればまったくよくわからない。
着物の上に割烹着を着ればまったく体型はわからず、中肉中背のようにも思うけれどしかし手首は細いから全身細いのではとか、あれこれ話題にはなるが、前述のように誰も本当のところを知らないため、その問答は毎回無意味だ。
「ごめんくださーい!」
本丸の門の外から明るい声が響く。
毎日食材を運んでくれる、近所のスーパーの看板娘である店長の娘と、アルバイトの女子高生がやってきたのだ。
二人はいかにも最近の若い女の子、という服装にエプロンを着けて大量の食材を車から下ろす。
「いつもありがとう」
いつも門までその日の給仕当番が受け取りに出て、大量の食材を本丸に運びこむことになっている。
「こちらこそ、毎日ご用命ありがとうございますうー」
「じゃ、これ請求書と納品書になりますね。また明日よろしくお願いしまーす!」
元気よく挨拶をして車に乗り込み去っていく二人。
それを見送ってからその日の給仕当番の同田貫は
「あれがいまどきの女子ってやつなのか?」
と山伏に尋ねた。
「拙僧が知る由もないが、多分そうなのだろうな」
「この時代の紅はなんだかキラキラしていたり、透明感があったりといろいろなんですねえー」
そんな細かいところに気がつくのは前田だ。
「我らには縁遠いものだが、そういうことは乱がよく知っているに違いない。よし、運び込もうではないか」
「おう」
「女の人といえば、束穂さんもああいうキラキラした紅を使うのでしょうか」
「しらねー」
ぶっきらぼうに同田貫が言えば、山伏は一番重たいダンボールを軽々と抱えながら笑い
「我らは見ること叶わぬが、そうかもしれんな」
「げえー」
同田貫は心底嫌そうな表情を見せた。