第2章 守護者の秘密
一期一振という刀が本丸にやってきてからというもの、数の多い弟分である刀達は毎日毎日、誰が一期一振と出陣したいだの、誰が彼に何の世話をやくだの明るい声をあげていた。それらも少しずつ収まって来るだろうから数日の辛抱と誰もがわかっていたけれど、当の一期一振の方が先に気疲れしそうだと審神者が判断をした。
「はいはーい、みんな注目ー」
朝食を終えてから、若干けだるそうに加州は広間で短刀達を集める。
「今日から三日間、短刀脇差中心で遠征の予定が組まれたよー。頑張って来たらー、ご褒美があるってさー。特に粟田口のみなさんは、えー、頑張ったら次の休日に、一期一振の服を買いに一緒に行けるって」
わあっと声があがる。勿論それは一期一振を囲む兄弟刀達からの声だ。
「勿論、他の短刀もね。なんかご褒美くれるっていうので張り切っちゃってー」
束穂が廊下の拭き掃除をしていると、遠征予定の短刀達ががやがやと楽しそうに前を横切って行く。
朝食後に前述のような連絡事項があったことを知らない束穂は「今日は出かける時刻が少し遅いんだな」と同時に「一期一振の兄弟刀がやけに張り切っているように見える」と気づいた。
「……ん」
今度は小夜左文字が静かに歩いてくる。粟田口の刀達の賑やかさとは縁遠いようだ、と内心思いつつ
「小夜さんも遠征組ですか」
と、珍しく束穂は声をかけた。
珍しい、というのは、小夜に声をかけることが珍しいのではなく、掃除中に誰かに束穂の方から声をかけるそのことが珍しいのだ。
小夜もきっとその「珍しい」に気づいたのだろう。あからさまに警戒の視線を束穂に向けてから
「うん……粟田口じゃないけど……でも、僕だって……」
ぽつりとそう呟く。
小夜が何を言いたいのか、この情報量ではさすがに束穂には理解出来ず「もしかして遠征は一期さんが一緒なのかな?」ぐらいしか考えられない。
「お気をつけて行ってきてくださいね」
「……うん」
ありきたりの束穂の言葉に、あまり心のこもっていない頷きを返して小夜はその場を離れていく。
きっと誰かが彼の心を覗けるとしたら「余計なことを口にした……」と後悔している様子が見えるだろうが、残念ながら束穂にはそれを知るよしもなかった。