第2章 徒桜【るろうに剣心】
何と言って良いか分からず
「翠………」
俺は無意識に翠の名を呼んだ。
途端、翠の目から一筋の涙が溢れ出す。
「…っ…………?」
初めて見る涙に激しい動揺を顕にする俺に向かって翠は………破顔した。
「嬉しい。」
「……嬉しい?」
「だって……初めて名前を呼んでくれた。」
これまで特に意識した事は無かったが、そう言われてみればそうかもしれない。
「蒼紫様の方から私の名前を聞いた癖に
一度も呼んでくれなかったから………
ずっと寂しかったんですよ。」
頬を染め涙を溢しながら、本当に嬉しそうに笑う翠が堪らなく愛おしいと思った。
ああ………俺を利用するのなら、とことん利用すれば良い。
俺に名前を呼ばれた位でそんなに喜ぶお前を、もう突き放せる訳が無いだろう。
俺が欲しいのならくれてやる……今直ぐ、全部だ。
そのまま翠を押し倒し頬を撫でてやりながら、俺は漸く心からの言葉を吐き出した。
「名前など……幾らでも呼んでやる。」