第5章 海の時間
「…」
気まずそうに目を逸らした。
「んなことしても可愛いだけだって」
「可愛くない」
「素直じゃないなぁ、浅野クンは」
「だから煩い」
「カニ。
もう離したから良いでしょ?」
空になった両手を見せる。
「は、なしたって…ことはまだ近くに居るじゃないか」
「んー、そうかもね」
「かもねじゃない」
グイッと腕を引っ張り、背中から抱きしめる。
「もしもーし?浅野クン?
一体どうしたの?」
「聞くな」
「…怖いの?」
「そんなんじゃない」
イジメ過ぎたかな、可愛いからって。
「強がんなくて良いって。
…俺もちょっとやり過ぎたし…」
「赤羽…」
「そんなに拘束強くしなくたって逃げないよ。
それにカニなら波に乗ってとっくにどっか行ってるよ」
心配することは何1つない。
「お仕置きだな」
ボソッと耳元で低く、怪しく囁かれた。
「っ…ふざけんな」
直接耳を撫でる生暖かい声に、背筋に悪寒のような何かが走った。