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怨みの果てに【鬼灯の冷徹】

第1章 第壱ノ獄.怨みの中で


平成の世が始まったばかりの頃。地獄の鬼神、鬼灯は変装をして現世の街を視察していた。
彼はまだ行ったことのない丘の上の墓地へと向かい、夜になる頃にたどり着いた。
すると、人の声がする時間帯ではないのに複数の人間の罵声が聞こえてきた。

(なんでしょう…気になりますね)

鬼灯は興味本意で、その人間たちの様子をこっそり窺った。
鬼灯の目に映ったのは、罵声と暴力を浴びせる10人ほどの男女。それから、その罵声と暴力を受ける1人の女性。

(…ただの喧嘩…ではなさそうですね…)

鬼灯が見かねていると、その10人の男女は少しして去っていった。
鬼灯は取り残されてうずくまる女性の前に姿を現した。

「…大丈夫ですか?」

「…誰…です、か…」

「私は通りすがりの鬼神です」

「…そう…ですか…お見苦しい、ところ…見せてしまい…申し訳、ありません…」

女性はか細い声で、途切れ途切れになんとか口を開く。鬼灯の言葉に驚きもせず、息も絶えだえに生きようとしていた。
だが、鬼灯にはわかっていた。この女性はもう助からない、と。

「…私の…お迎え…ですか…?鬼神、様…」

「そういうつもりで来たわけではありませんが、そういうことになりそうですね」

「…やはり…私は…死ぬの…です、ね…」

「はい。貴女の寿命はもうすぐ尽きます」

「…そう、ですか……出来るなら…鬼でも、なんでもいい…彼らに…復讐する力がほしい…」

女性はそう呟き、心の底から怨みのこもった眼をして微笑んだ。
そして、数分後に息を引き取った。
それを見た鬼灯は、現世にとどまっていた僅かな鬼火が集まってきたのを感じる。

「…貴女の怨みを試させていただきましょうか」

鬼灯は鬼火が女性の体に入っていくのを見届けた。
女性の体は何の変化もなく、静かにそこに横たわっている。

「…期待はずれでしたかね」
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