第7章 二人
俺は手を跳ね返した。
おそ松の手は俺が叩いたせいで微かに紅く染まっている。
おそ松は俺に反撃することもなくただ静かに自分の色した手を見つめていた。
その意外な行動に多少動揺しながらも隠しておそ松を睨み付けた。
「信じれるかっ……」
そう、あの日、バットや臼を投げたのは夢ではない、現実だった。
それにそれを投げたのは間違いなくおそ松達だった。
「………」
おそ松は黙ってた。
ただ静かに黙ってた。
…何で黙るんだよ。
何か言うことあるだろ?
「…………」
「何か言えよっ……」
黙るな。せめて一言謝ったらどうだ?
「っ………」
!!
おそ松の目から、
涙が溢れていた。
その涙に濡れた目を袖で隠しながら枯れた声で俺にしがみついた。
「カラ松っ…ごめんなっ…本当にゴメンっ!俺……最低の兄貴だよな…カラ松が死ぬかもしれなかったのに、…皆してあんなことを……お前が許してくれないのも、当然だよな。本当に……ごめんなさい……」
おそ松が初めて俺に涙を見せた。
俺を抱き締める腕は、細かった。丸で何日も飯を食っていなかったかのように。
「やっぱり……俺には、お前が必要なんだよっ……!
お前がいない世界なんて……嫌だっ!!!」
「おそ松……」
俺が…必要なのか……?
俺がいない世界が…嫌なのか……?
本当……なんだな?
目に涙が伝った。
「おそ…松兄さん……寂しかった…!怖かった………!!」
俺もおそ松の背中に腕を回した。
そして二人で泣いていた。嗚咽を上げて、喚いて、哭いて。
「クソ松の癖に、何泣いてんだよボケが」