第7章 二人
いない、
だいぶ探したがおそ松はやっぱりいない。
もしかしたら、この世界にはいないかも知れない。
所詮、この歪みは、俺の妄想でしかないのだ。
でも………
「何でいないんだよ…
何でだよっっ!!!」
『お前、五月蝿いよ?』
俺の後ろに、奴がいる。
なんだ。誰だ?
いや、誰か解ってるんだ。
俺は後ろを振り向き、奴の姿を見た。
皆とは色違いのパーカー。
暗く灯された肌に。
焼け尽きたような、枯れたような可哀想な心。
『やっと会えたな。』
そう、声の主は俺だった。
闇に尽きた俺。
もう一人の自分。
そいつが俺の頭に触れた。
こいつが、全ての歪みの元凶だ。
つまり、この事件は、俺が悪かったんだ。
爪先の火傷も、酷い頭痛も自業自得。
何もかも俺が悪い。
俺が悪いせいで皆が悲しい思いをしてる。消えなくては。悪い人間はこの世から消えなくては。消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ…………
ポタッ
やだよっ……死にたくないよ………
涙が俺の頬を伝った。
「俺」は『俺』に訊ねた。
兄弟は「俺」のことが嫌いなのか?
__そうだ、大嫌いだ。
俺の何が悪かったんだ?
__お前が存在していることだ。
俺は今からやり直せるか?
「お前は何も変わらなくて良いんだよカラ松、
周りの感覚がバカになっちゃえばいいんだ。」
え…
遠くから見える、赤いパーカー。
俺の唯一の兄貴。
大事な、兄弟。
「カラ松~お兄ちゃん心配したよ~もう必死で必死で……」
おそ松は息を切らして「俺」を抱き締めた。
『俺』はもう居なかった。
「家に帰ってパーっとビール飲もう!」
おそ松は俺の手を握ろうとした。
ただ、俺はその手を振り払った。
抱き締められた体を引き離した。