第3章 忘れられない1日
夏休みに入り、シュリと連絡を取って明後日長野に行く事にした。
久しぶりにシュリと徹に会えると思うと嬉しかった。
あたしは久しぶりに徹にメールを送った。
"明後日、紫音と二人で長野に行くからね!
久しぶりなんだから、紫音とケンカしないでよ。"
そう送ったが、徹から返事は来なかった。
翌日、明日の打ち合わせをするためにあたしは紫音の家に行った。
「昨日徹に明日行くことメールしたんだけど、返事来ないんだよねー。」
何の気なしにそう言うと、紫音も不思議そうな顔をした。
「どうしたんだろうね羽山君。」
「ねー…まぁ、明日会えるしいいか。」
この時は徹の身に起こっている事など知る由もなく、深く考えなかった。
「そういえば、親が明日だけ特別に門限11時にしてくれたんだ。」
「そうなんだ、じゃあいつもより少しゆっくりできるね。」
紫音も心なしか嬉しそうに見えた。
紫音にはまだ、あたしの家庭の事情を話せずにいた。
しかし紫音は何も聞かずに、でも必ずあたしを門限の9時の15分前には家に送ってくれる。
元彼はあたしの家庭の事情を知りつつも、たまに「帰したくない。」と言って門限を過ぎてしまう事があった。
あたしも彼と一緒に居たかったからその時はそれで良かったのだが、やはり帰宅して父に怒鳴られて叩かれるのは辛かった。
紫音は勘が鋭いから、薄々気付いているのかもしれない。
そして、あたしから話すまで待ってくれているような気がする。
それでもあたしは話すきっかけを掴めずにいた。
「明日は9時30分に駅に集合でいい?」
「うん、いいよ。」
紫音は優しく微笑んだ。
幾度となく見てきた紫音の微笑んだ顔。
あたしはこの優しい顔が好きだ。
「紫音ってさ、凄く優しく微笑むよね。」
「そう?」
「うん。正直、最初はなんか違和感があったんだけど…最近はそれも感じないな。」
そう言うと、紫音がクス、と笑った。
「前にシュリにも同じ様なこと言われたんだよ。」
「そうなの?」
「うん、口元は笑ってるのに目が笑ってないって言われた。」
その言葉で凄く納得した。