第1章 二人の事情
案の定、家に帰ると真っ先に父に頬を叩かれた。
「門限も守れないのかお前は!!」
鬼のような形相で怒鳴られ、今度は逆の頬を叩かれた。
「ごめんなさい…。」
「時間も守れないような娘なんて恥以外の何者でもない!!」
母は同情の眼差しを向けるだけで、何もしてくれない。
父の怒りが収まるまで見ているだけだ。
いつもの事だが、それがいつも悲しい。
あたしの父は、不動産会社の社長だ。
父に関して知っている事は少ないが、知人の中には政治家や警察関係者もいるらしく、非常に世間体を気にする。
表向きは穏やかで人当たりの良い人間だが、家庭では真逆だ。
威圧的で暴力的。
そんな父に母もあたしも逆らえるはずがなく、あたしは早く大学を卒業して家を出たいと思っている。
父は気が済んだのか、寝室に入って行った。
あたしは母と目を合わす事もせず、自分の部屋に入った。
この時あたしは、大学さえ卒業すれば自由になれると思っていた。
就職して何れは結婚して、自分の家庭を持ちたい。
温かくて穏やかで、家族みんな仲が良い。
そんな家庭に憧れている。
誰と結婚するかなど、正直今は分からない。
でもその相手が紫音なら、あたしが憧れている家庭を築ける気がする。
「…って、ついこの前まで元彼とそうなりたいって思ってたくせに都合良すぎるか。」
相手が誰でも良い訳ではないが、好きな人と幸せになりたい。
ただそれだけを願っていたのに…。