第1章 鳴かずば
「あ、銀ちゃんだ。おはよう! 今日も立派なモジャモジャだね!」
そう余計な一言と共に告げた五葉は相変わらず輝くような笑顔だった。齢12歳の彼女は今日も今日とて元気よく無口で無愛想な銀時に話しかける。
吉田松陽の開く寺子屋は地元の子供達で溢れていたが、社交的とは言い難い銀時に近づこうとする者は少なかった。けれどそれは、銀時が常にぼーっとしているか、居眠りをしているかのどちらかだから仕方の無い事かもしれない。積極的に話しかけようにも適当な返事しか返さない銀時と長く会話が続くはずがなかったのだ。はっきり言って絡みづらい。
松陽に拾われたばかりの頃と比べれば、空返事の相槌を打つようになっただけでも成長したと言えるかもしれない。初めて寺子屋の授業に参加した時は己の殻に閉じこもり、周りの子供と目を合わそうとすらしなかったのだから。
他人と同じ部屋と時間を共有していく内、やっと銀時は自然と口を開くようになった。無愛想なのは変わりないが、他人と触れ合う事に戸惑いはなくなる。そこは主に寺子屋一の優等生である桂小太郎と、剣術での好敵手である高杉晋助のお陰かもしれない。彼らは日常の中でも何かと銀時に話しかける機会が多かった。対話が上手な男子とならば、割とまともに受け答えが出来る自信を銀時に持たせた。