第8章 思い出の欠片
その"何か"を打ち消すように、深い溜息をする。その時、結紀の部屋の扉がノックされ、許可を出せばゆっくりと開かれる。そこにいたのは、昴輝だった。
昴輝が結紀の部屋に訪ねたのに不思議に思った彼女は微笑んで言う。
「どうしたの、昴輝?」
「……いや。お前の隣に居たいと思っただけ。」
昴輝がそんな事を言えば、結紀の隣に座る。昴輝が結紀の部屋に訪れるのは珍しくはない。けど、"何か"が違う…そう感じていた。
昴輝が何を考えているのか正直分からない。だから、結紀は、恐る恐る昴輝に尋ねる。
「ねぇ、昴輝。何かあったの?」
結紀の一言に、ピクリと僅かに肩を揺らす。そして、昴輝は彼女の方を見る。その瞳は、悲しそうで怒りを感じる。獲物を狩るような瞳だ。彼の瞳を見た結紀は、目が離せなかった。
その瞬間、昴輝は結紀の肩を強く掴み、ソファーに押し倒す。結紀は見上げる形になった。こんな状況は、あまりにもおかしい。結紀が口を開こうとした時、昴輝が荒々しい声で言った。
「もう、オレから離れるんじゃねぇ!いくら契約しているとはいえ!」
「昴輝……。」
僅かに結紀の体は震える。昴輝が余程、怖いから震えているのか、と考えてしまう。すぐに、結紀が彼に反論しようとすると、彼女の頬に涙が垂れてきた。
昴輝が泣いている。彼が泣くのは滅多にない。その姿を見た結紀は何も言えなくなり、心が縛られる。