第33章 決勝戦vs白鳥沢
ぽろぽろと涙が落ちる。
テンションが上がった冴子ちゃんがこちらを向いてびっくりしている。
「蛍の兄貴めっちゃ泣いてる!って椎名さんも!よっぽど蛍のブロックが嬉しかったのね?」
「蛍がちゃんとチームに溶け込んでいる…」
「そっちね‼︎」
『蛍君が…蛍君がぁ…』
「言葉になってませんよ!」
そう言いながら仁花ちゃんは私にティッシュペーパーをくれた
メイクができるだけ崩れないように抑えながら涙を拭き取る。
「蛍すごいじゃん!あのウシワカどシャットだよ!」
仁花ちゃんにもらったティッシュで鼻をかみながら明光さんは言う。
「たぶん今、ほんの少しだけ白鳥沢のトスが乱れた。」
「え、そうだった?」
「気がしたレベルですけども」
「じゃあ相手のミスがあったから蛍はボールどシャットできたってこと?」
『ううん、それだけじゃないよ…
蛍君ずっとボールに張り付いてワンタッチとってた。
攻撃がうまく決まらない時、なんていうのかな…プレッシャーがかかっていくのって多分セッターだと思うの。
プレッシャーを打ち破りたい、自分のチームのスパイカーに気持ちいいスパイクを打たせたい。
そう思い、また焦る…」
私の言いたいことに気づいたらしい嶋田さんが私を見た。
「もしかして…」
『そうです。
多分、蛍君は少しずつ白鳥沢のセッターにストレスを与え続け小さなミスを誘ったんです。』
「俺…そこまで考えてバレーできねえわ」
蛍君すごい
すごいよ
「今のブロックも咄嗟のチョースーパープレーだと思ったのに…
それだけじゃないんだねー!
よくあんな動きながら色々考えられるモンだわ」
「月島くんは頭がいいから、バレーもそれ以外のことも、常に色々考えてる人だと思うんですが…」
「アイツ偏屈だろ…」
仁花ちゃんは少しだけ苦笑いをすると目線をコートに戻した。
「でもいま月島君は一本のスパイクを止めることだけを考えていたんだなぁと思いました。
ただ純粋にテストの難問を解くみたいに 。」
きっと蛍君が素直じゃないのは自分のせいだって思ってるんだろうな…明光さん。
でもきっと蛍君は少しずつ払拭している。
夏の合宿で想いを吐露してから。