第32章 春高予選決勝前夜
朝5時。
私は蛍君の腕から抜け出した。
髪の毛を軽く束ねているともぞもぞと蛍君が動き出す。
「かのさ…」
『ごはん作ってくるからもう少し寝てて?』
「ん…」
そっと髪の毛を撫でると規則正しい寝息が聞こえてきたのでそっとキッチンに向かった。
今日は和食の予定。
焼き鮭、出し巻き卵、ほうれん草のおひたし、わかめと豆腐の味噌汁を用意した。
6時を過ぎた頃、前の日にセットしていた白米が炊けたので蛍君を起こしに向かった。
『蛍君?ごはんできたよ?』
「ん…あと5分…」
甘えた声にそのまま寝かせておきたいという気持ちがむくむくと出てくるが流石に寝坊させるわけにはいかないので心を鬼にして布団を剥がす。
おっきな体を小さく丸めている姿が可愛いけれどそろそろごはんを食べないと時間に間に合わない。
さて、どうしたものか…
『けーいくん?早く起きないとイタズラしちゃうよー?』
返事がない。
よしやるか。
頭の中のテーマソングはミッションインポッシブル。
ベッドのスプリングがならないようにそっとベッドに乗る。
蛍君の体をまたいで膝立ちになる。
ここまでは完璧。
私はそっとある部分に手を伸ばし…
脇の下を思いっきりくすぐった。
ガバッと音がするくらい瞬時に起き上がる蛍君をここぞとばかりにくすぐる。
「ちょっ!かのさん!それっだめ!」
『いつまでも起きないからだよー!』
「かのさっ!やめっ!だめだって!」
両手で手首を掴まれたためこれ以上くすぐることができなくなる。
残念。
「朝から何してるんですか…」
『声かけても起きないから実力行使で。起きたでしょ?』
「まぁ…」
私はキッチンに向かうために蛍君の上から退ける。
前に、蛍君の唇に軽めのキスを落とす。
『おはよ?』
覗き込むように見つめれば、ちょっと照れたような顔で「おはようございます。」って返してくれた。