第32章 春高予選決勝前夜
家に着くとまずはじめにお風呂の準備をする。
何回も来ているからか蛍君は「お邪魔します」と挨拶をすると部屋に入っていく。
慣れたもんだなぁ。
私がお風呂に入っている間自由にしてもらっていたんだけど…
戻ってくると蛍君は熱心に何かを見ていた。
『何見てる…ってこれどこから引っ張り出したの⁉︎』
蛍君が見ていたのは高校の卒業文集。
「そこの棚に…」
『それ…恥ずかしいんだけど…』
ちょうど見ていたページは男子バレー部のページ。
バレー部部員の隣に当時は肩までに切り揃えられたボブヘアー、おでこ丸出しのポンパドールで写真に写る私。
バレー部のジャージに身を包んだ私は今よりも幼い顔立ちをしていた。
「髪の毛短かったんですね。」
『うん…マネージャーしてる時邪魔だったから。』
この頃は楽しかったなぁ。
確か…
私は棚をゴソゴソ漁り出すと1冊のアルバムを取り出した。
『高校の時のアルバム…みる?』
ページを開くと昔の私が飛び出す。
高校3年間の記憶を切り取った写真がたくさんならんでいた。
「もしかして烏養監督とかいるんですか…」
『んとねー、これが繋心センパイで滝ノ上センパイと嶋田センパイがこれだね?』
2年の夏に烏野バレー部でバーベキューをした時の写真を指差し説明する。
『あの頃は烏野が数年後に全国いくなんて思わなかったなぁ…』
ふと呟くと蛍君は私の方を見ていった。
「夏乃さんのこと…連れて行きますから…東京のコートに」
『うん。たのしみにしてる。
明日、頑張ってね?観客席で応援してる。』
嬉しかった。
私がマネージャーの時に成し遂げられなかった全国という夢。
今度は蛍君が叶えてくれるかもしれない。
わくわくした。
今年は東京のオレンジコートを見ることができるかもしれないという期待。
しかし、明日勝たなければそれも叶わないわけで。
『じゃあ、明日勝つために寝るよ?
明日眠くて試合に集中できないなんて嫌よ?』
「わかりました。先に部屋に行ってますね?」
『私朝ごはんの準備してから寝るから先に寝てて?』
「わかりました…」
蛍君はぺこりと頭をさげると奥の寝室に向かった。