第32章 春高予選決勝前夜
蛍君のお家の前に着くと、私は蛍君に電話をする。
そして蛍君が家を出る前に玄関に回る。
流石にこの時間じゃ挨拶しないわけにもいかないじゃない…?
1度東京に行く前に挨拶させていただいたけど….
いつ見てもおっきなお家…
緊張する…
引き戸を開けて挨拶をするとそこには準備を終えた蛍君。
私がにこりと微笑み、蛍君の家に来る間に買ってきた菓子折りを見せるとちょっと面倒くさそうにしながらも「母さん…」と呼んでくれた。
パタパタとスリッパの音が聞こえる。
「椎名さん!」
蛍君のお母さん、いつ見ても美人さん。
社会人の子供がいるなんて思えないくらい若くて可愛い。
『夜分遅くすいません。蛍君迎えに来ました。明日はちゃんと学校まで送り届けますので…』
買ってきた菓子折りを差し出し、頭をさげる。
「さっき急に出かけるって言い出したからびっくりしたけど椎名さんのところなら安心ね?
蛍のことよろしくお願いしますね?」
お母さん的には心配しないのかな…
ちょくちょく挨拶はしてるけども…
『では息子さんお預かりしますね?』
「今度ご飯でも食べに来てくださいね?家、男ばっかりだから椎名さんに来てもらえるの嬉しい。」
『今度伺わせていただきますね?では失礼します。蛍君、行くよ。』
「…行ってきます。」
蛍君と一緒に車に乗り込む。
『私、こんなに信頼されててちょっと心配になる…』
まぁ、初めてお話させていただいた時名刺渡したりしてるけど…
「うちの母親、天然入ってるから…」
そりゃあ息子がしっかりするわけだ…
『お腹は空いてない?お風呂は?』
「どっちも済んでます。」
『わかった。じゃあいくよ?』
私はハンドルを握り、車のエンジンをかけると自宅に向かって車を走らせた。