第31章 代表決定戦2日目〜因縁の対決〜
「カラスは群れで大きな白鷲さえ殺すかもね。」
そう牛島君に言い残し私のいる方に向かってくる及川君。
隠れてやり過ごそうとするが…
周り壁しかない!
「今の聞いてた?夏乃さん…」
まぁ、逃げられるわけもなく。
素直にうなづいた。
「ははっ…参ったなぁ…」
その顔にいつもの茶化したような笑顔はない。
『今日はお疲れ様。及川君格好良かったよ?』
私は笑顔で言葉を紡ぐ。
「でも負けた。負けた奴はもうコートには
立てない。」
及川君の表情は曇り、声が詰まる。
『それでも、あなたがやってきた努力は無駄じゃないよ。
岩泉君と青城のみんなと
頑張ってきた3年間はちゃんと力になってる。
及川君の糧になってる。』
今まで張り詰めていた糸が切れたのか
1つ
また1つ
頬を涙が伝った。
「悔しい…
今回は全国に行けるメンバーだった。
最後のプレーも岩ちゃんに綺麗に繋げたんだ。
最後、烏野のチビちゃんがどこに打つのかもわかったんだ。
でも、拾えなかった。」
言葉に嗚咽が混じる。
そっと右手に触れる。
その手には
今まで頑張ってきた『証』が
刻まれていた。
いくつもの怪我をし
いくつもの豆を潰してできた
硬く
ゴツゴツした手のひら
毎日ボールを触らなければ
こんな手にはならない。
「試合で汗かいてるから汚いよ…」
『汚くない!』
離されそうになる手を無理やり両手で握る。
『こんなになるまで頑張った手が汚いわけない!
いっぱい、いっぱい頑張った手なの!
汚いなんて…いわないで…?』