第1章 序章
「だって、最近俺たちすれ違ってばっかり『わかった…』
まるで私が悪い。
そんな言い訳みたいなことばは聞きたくなくて、できる限り低い声で呟く。
『1ヶ月猶予を頂戴? 1ヶ月で部屋…出て行くから。それまで…「わかってる…ごめん…」』
最後まで涙は流れなかった。
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話し合いをしたカフェで別れて私は1人で家に帰ってきた。
部屋着に着替えコーヒーをいれ、冷蔵庫を開けると、昨日作っておいたガトーショコラを取り出す。
今日は2月14日。
恋人たちのための日。
甘党の彼のために甘めに作ったケーキ。
ホールのまま端っこからスプーンですくって口に入れる。
『甘すぎるよ…』
甘すぎるケーキを濃く苦いコーヒーで流し込むと少しだけ甘さが和らぐ。
1口….また1口
スプーンを運ぶ手が早くなり、ふととまる。
『っ…』
ひとつ、ふたつ
2人で選んだガラステーブルに水滴が落ちる。
一度流れてしまったら溢れ出して止まらなくなってしまった涙を部屋着の袖で拭きながら一心不乱にケーキを口に運んだ。
甘いケーキが喉をひりつかせ余計に涙がこぼれた…