第14章 夏の長期合宿3日目‼︎
そう言われた影山くんの表情が変わる。
「手を…抜く?…俺が?…バレーで?」
日向君に言われた言葉により影山君が怒る…
いや、キレてる。
「もう一回言ってみろよ。」
ドスのきいた声
いつも以上に釣り上がる目
日向君の胸ぐらを掴む力のこもった手
他のメンバーは2人を落ち着かせるために声をかけ、武田先生はタイムアウトを取った。
怒りで怒鳴るように言い合う2人の言葉を必死に広い取る。
「今の『落ちてくる』トスじゃなかった‼︎」
落ちてくるトス…?
きっと今やっている新速攻のことだ。
もしかして…みんなが気づかない、そんな微妙なトスの違いを、もしかして日向君は感じ取っているの?
合宿が始まる前に繋心センパイが教えてくれたけれど、今影山君がやろうとしているのは『日向君の打点付近に落ちるトス』。
イメージとしては打点で一瞬止まるようなトス。
影山君の場合その止まるの精度が非常に高いから日向君の打点ドンピシャにあげなければ即ミスになる。
ちなみにさっきのは今まで目の前を落ちていたはずのトスが少し放物線を描くようなトスだった…らしい。
普通の人には全く見分けはつかないけれど…
つまり影山君がスパイクを打てていない日向君に無意識に打たせようとしたということなのかもしれない。
同じような結論になったらしい繋心センパイが不思議そうにしている武田先生に伝える。
「ここしばらく日向は気持ちよくスパイクを決めていない。
それはスパイカーにとって相当なストレスだ。
そのストレスによって日向か調子を落とすことを影山は無意識に危惧したのかもしれない。」
日向君すごい…
ほんのわずかな
普通の人にはほとんど気づかないようなことに気づいている。
それだけではない。
影山君本人が気づかない妥協に気づいた。
影山君がもっとできる
この速攻を完成できる
影山君ならやれる
そう信じてるんだ
そうでなければこの言葉は出ない。
「やめんな!影山!」
影山君もいっぱい悩んでいただろう。
悩んで
なやんで
眉間に深いしわを作るほどに。
でも今の一言を聞いた影山君の表情が変わり、眉間のしわがすっとなくなった。