第10章 雛鳥たちの変化と葛藤
『蛍君はご飯食べた?』
蛍君は無言で目をそらす。
『食材少ないから大したもの作れないけど食べる?』
蛍君がこくりと頷いたので私は台所にご飯を作りに向かった。
冷蔵庫にあったものでちゃちゃっと昼ご飯をつくり、夜ご飯の仕込みをした。
これで冷蔵庫の中のものは空になるはず。
そんなことを考えながら食事を持っていくと蛍君はソファーにもたれかかり眠っていた。
こんなに油断した顔初めてかも…
食事をそっと机に置くと蛍君に向き合う
そっと眼鏡を外すとちょっと身じろぎするが起きない。
サラサラで柔らかな髪の毛
すっと通った鼻筋
引き締まった頬
薄いけど形のいい唇
寝顔、かわいいな…
キス…したいな
誰もいないのに周りを気にしてきょろきょろし、蛍君の顔に髪の毛が当たってしまわないよう気にしながらそっと唇に近づいた。
いや、でも、寝てる人の唇奪うとか…
ちょっと悩んでやっぱり止めようとした時、
「やめちゃうんですか?」
いつの間にか起きていたらしい蛍君は意地悪そうに笑って私の髪の毛を一房つかむ。
『いや、蛍君寝てるしなーって思って。』
「やめなくて良かったのに。」なんて笑いながら蛍君は体制を変える。
やっぱり何か変だ。
いつもより表情が硬い。
私はソファーの前に膝立ちになり蛍君に話しかけた。
『蛍君…何か悩んでるなら話聞くよ?まだ行くまで時間あるし。』
「じゃあ…
食事食べ終わったら寝てもいいですか?
どうせ車の中だとあまり寝れないだろうし。」
冗談でかわされてしまった。
歳上なのに情けない。
大事な人の話も聞いてあげられないのか。
落ち込んだ顔が出てしまったのか蛍君はそっと頬に触れてきた。
「まだ、今はちょっと…
でも言えるようになったら必ず言いますから。」
『…うん。』
「じゃあ食事食べましょうか。」
結局蛍君に促され食事にしたが…
やっぱりなんとなくモヤモヤした気持ちは解消しないままだった。