第10章 冬のニオイ <双子3歳>
「♪まっちにあっいのう〜たっ♪」
金曜日の夕方の櫻井家。
今日は雅紀はオンコール当番で自宅待機。
お酒も飲めないので…と突然思いついたのかキッチンで鼻歌を歌いながら夕飯の支度をしている。
「「ただいまーーーー!!」」
智と和也の元気な声が響いたかと思うととてとてとてと軽やかな足音が響く。
「二人とも!靴!」
今日のお迎え担当の潤の声がキッチンにまで聞こえた。
またとてとてと鳴る足音に笑みの溢れる雅紀。
二人とも勢い良く入ってきて靴を脱ぎ散らかしたんだろう。
雅紀は手を洗って玄関を覗くと智と和也が靴を直して潤に謝っていた。
「めんちゃい…」
「ごめん……なさぃ」
舌っ足らずな発音で謝る智とごめんで終わろうとして潤に睨まれて最後までいう和也。
「気をつけろよ?」
潤はにっこり笑って二人の頭を撫でるとそのまま洗面所でのうがいと手洗いを指示した。
「まー、ただいま」
手に二人分の重そうな荷物を持つ潤の爽やかな挨拶に雅紀もにっこり笑っておかえりと告げる。
「重そうだね?失敗しちゃったの?」
「そう、今日はダブル」
笑いながら袋を掲げる潤。
中には水洗いされた濡れたシーツとタオル。
双子のお昼寝セットだ。
おねしょ後の…。
「手、洗うついでに洗濯してきちゃうよ」
潤はそう言うと双子の後を追って洗面所へと向かった。