第1章 少しだけスキャンダル<双子0歳>
保育器に入る智と和也をみながら翔の脳裏に浮かぶのは一枚の写真。
生まれて間もない雅紀と智美が並んだ保育器に入っている写真。
翔は実際には弟と妹が保育器に入っているところは見たことがない。
例え見ていても当時2歳の翔に覚えていろというのは酷だと思う。
写真が構築する記憶。
まるで自分が見たかのように錯覚するほど何度も見た写真。
あの光景に近い状態の今。
せめて智美の代わりに愛情を注ごうと小さなふたりの寝顔を見ながら思う。
「ふたりともよく寝てるね…。
もうすぐおうちに帰れるからね。
大事に、大事にするから安心してね?」
ふたりにそっと呟いた。
もちろん、自分一人では無理で…。
雅紀の手も借りることになる。
そしてもう一人…。
一緒に住んでサポートしてくれる大事な家族。
松本潤。
義弟の義弟という複雑な関係。
戸籍上は双子たちの叔父になる。
でもどっちかというと大学の後輩というか親友としての要素が強い関係。
彼の力も絶対的に必要で…。
あの日、男3人で双子を守るって決めた。
まもなく…新しい生活が始まる。
嬉しさと不安と…。
きっと喜びは何倍にも増幅するだろう。
悲しみは分かち合えばいいと翔は思う。
NICUを出て一つ伸びをする。
長い一日だったなぁと翔は思った。
「翔にい!」
明るい声に振り返る。
太陽みたいに暖かい笑顔の弟がいた。
「おっし、帰るか?」
これから始まる新しい生活に希望を抱きながら二人は歩き出した。
<少しだけスキャンダル<了>>