第17章 ・傘の話と見えない戦い
ここで1つ兄妹が知らない話をしよう。
休み時間の廊下にて何人かが固まってひそひそと話をしている。
1人が言う。あの牛島妹は結局どうしたかなと意地悪くクスクス笑う。まさか3年の傘立てにあるとは思わないだろうといったことを口にしている。他の奴がいや購買で傘買って帰ったんじゃないかと言った。もし濡れて帰ったんならちょっと可哀想だったかもと付け加えはするがちっともそう思っていない口調である。しまいにリーダー格っぽいのが別に濡れたって構わない、最近あいつは調子に乗り過ぎだ風邪でもひいてくれりゃいい気味と言った途端だった。
「へー、そーなんだぁ。」
話をしていた連中はバッと声をする方を振り向く。そこにはニヤニヤしている天童覚と渋い顔をして腕組みをしている瀬見英太がいた。
「恐れ知らずだねえ、文緒ちゃんいじめたら若利君が黙ってないってのが結構浸透してるのにさ。」
笑いながら言う天童だが相手からすれば恐ろしい事この上なかっただろう。
「若利君が聞いたら激怒するだろなー。文緒ちゃんの事チョー大事にしてるからさ。」
話をしていた奴らは青ざめ、天童はニィと笑った。はっきり言おう。凄く悪い顔だった。
「大丈夫、黙っといてあげる。その代わり二度と文緒ちゃんに意地悪しないよーにね。てか」
ここで天童がキロリと相手を見た。
「若利君だけじゃないからね。文緒ちゃんに危害加えるんなら俺らも黙ってない。」
震えながらもリーダー格が言った、どうして男バレが揃ってあんなのに構うのかと。たまたま牛島妹になっただけのお高くとまった他所者をそこまでする必要がわからないというのだ。
「あー、英太君いる前でそれ以上はやめといた方がいいよ。」
天童はヘラリと笑い、眉間に皺の寄っている瀬見を見やる。
「最後の方は聞かなかった事にする。」
唸るように瀬見は言った。
「仲間の妹だしいい奴だと思ってっから、それだけ。」
「あ、俺も右に同じね。」
笑う天童に瀬見は行くぞと呟いて背を向ける。
「あ、待って英太君。それじゃバイバーイ。」
天童はひらひらと手を振り瀬見の後を追う。
若利にも文緒にも見えない戦いがここにあった。
次章に続く