第17章 ・傘の話と見えない戦い
朝もはよから抱きしめられて文緒が声を上げる。あの時、と若利は思う。自分はわかる年頃ではなかったがあの人も他所者であるが故の戦いがあったのかもしれない。そして今文緒も自分とは別の見えない所で密かに戦っているのかもしれない。
「どこにも行くな。」
思わずそう口にしていた。
「何があってもお前がいなくなるのは許さない。」
勿論です兄様、と文緒は微笑む。
「ただもしもの時は」
文緒が何を言いたいかわかった。
「あり得ん。」
若利は被せて断言する。
「お前も生かす事を考える。近しい者が去っていくのはあまり良い気分ではない。」
何か言わせるつもりはなかった。若利はもう一度義妹を抱きしめ直した。
「そういえば」
なのに余韻も何もないのも若利クオリティなのか。
「お前の携帯電話を充電してやろうと思ったのだがアダプターがどこかわからなかった。」
「あら、お気遣いなく。緊急用の充電器がありますからそれで凌ぎます。」
「お前ならそう言うと思った。」
そうやって若利はいつも通り朝練に行き、文緒も後からポテポテと登校した。
昨日とはうってかわって今日はやけに晴れていた。