第16章 ・【外伝】8番奮闘す
とある昼休み、階段から牛島文緒が降ってきた。後で聞いた所によると文芸部の会誌に載せる作品について考え事をしていてそのまま階段を降りようとしたら踏み外したらしい。危ない事この上ない。
そして五色工は丁度その現場にいた。
「あっ。」
叫ぶ文緒の体が落下してきた。まるでスローモーションみたいにそれが見えた五色の体は反射的に動く。ドサッという音が響いた。
「うっ。」
「五色君っ。」
文緒が声を上げる。
「ごめんっ、大丈夫っ。」
「あ、う。」
危ういところで五色は文緒を受け止め"あの牛島の(ロリ)嫁"は難を逃れた、のはいいのだがそのまま五色は固まっている。
五色はがっちりと牛島文緒を抱き締めてしまっていたのだ。そのまま離せばよかったものの五色はそうしない。
やべえと思う。まともに文緒に触れてしまった。思ったよりは固くない。見た目がガリガリ—五色から見れば—なのでもっと骨の感触があると思っていたが両腕のあたりが存外ふにふにとしている。一方肩の辺りははっきりと骨の感触があってその小ささに五色はドキリとした。小柄なのはわかっていたがこうして触れるといっそう感じられる。これ大丈夫かと五色は思った。うっかりしたら折れたりすんじゃないか、もしそんな事になったら俺牛島さんに殺される。後多分瀬見さんにも怒られる。
固まったままそんな事を考えている内にとうとう文緒がもう一度五色君と呼びかけてきて、五色はハッとした。
「ごめんね、怪我はない。」
「お、俺はヘーキだっ。つか何で先に自分の心配しないんだよ。」
五色はつい勢いよく言う。前から気になっていたのだ。文緒はたまに自分をないがしろにする事がある、ような気がする。
「私は別に怪我したら困るスポーツとか活動をしてる訳じゃないもの。それに」
文緒は言った。
「私は加減が下手だから自分の事を考えると今度は他の人の事が疎(おろそ)かになっちゃう。」
何でこいつはそういう重たい事をさらりと言えるんだろうと五色は思った。
「で、でもよ」
戸惑いながら五色は呟き、しかし文緒は被せるように言った。