第15章 ・お姫様じゃない
白鳥沢学園高校3年1組の教室にて、瀬見英太は3時間目の休み時間クラスの違う天童と一緒にいて他愛もない話をしていた。
「そーそー、俺最近面白い曲見つけちゃってさ。」
話しているうちに天童が言う。
「何だよ、動画サイトか。」
やれやれといった調子で瀬見が言うと天童は呑気にうんと頷きスマホを操作し始めた。
「ほらこれー。」
「るっせえ声だな何だこれ。」
「ほれ一時期巷(ちまた)で盛り上がった合成音声。」
「ああ、あれか。」
「結構古いけど今も人気の曲みたいだよー。」
「なーんか」
聞きなれない合成音声を何とか聞き取りながら瀬見は呟く。
「如何にも夢見る乙女って内容だな。」
でしょと言う天童はここでそーだっと声を上げる。またしょうもない事を考えついたかなと瀬見が思っていると天童は案の定しょうもない事を言った。
「これ文緒ちゃんにも聞かせたげよ。」
「何でそこへ文緒が出てくんだ。」
「教材。」
「頼むから俺にもわかるように言え。」
頭を抱える瀬見に天童はつまりと補足する。
「文緒ちゃんもたまにはこれくらいわがままを言いなさいっていう話に持ってくの。」
「お前馬鹿だろ。」
「だってさぁ、文緒ちゃんいつまで経っても若利君の忠実な嫁って感じだもん。」
「いや結構物申してるだろ、何べんか嫌です兄様っつってるし捕まりそうになったら逃げようとしてるし。」
「でもそれ最低限ヤバいって思った事ばっかじゃん、全然足りないって。英太君もわかってんでしょー。」
「まー違うとは言わねえ。」
瀬見は呟いて教室の天井を仰いだ。その隙に天童は1人よっしゃと呟く。
「んじゃ決まりね、英太君。昼休みも付き合いよろしくー。」
瀬見はハッとしたがもう遅い。休み時間終了のチャイムが鳴ると同時に天童は3-1の教室から脱兎の如く逃げ出す。
「待てコラァッ天童っ、文緒を巻き込むんじゃねえっ。」
怒鳴りながら瀬見は後を追うが天童の姿はあっという間に消えていく。
「ああもうっ。」
1人瀬見は頭をかきむしりながら騒ぐ。いつかの山形のようだ。3-1の奴らがあいつどーしたといった様子で見ているが構っている場合ではない。