第9章 ・お出かけします その3
「こうすれば2人とも写るだろう。」
文緒はまたもキョトンとした。仏頂面の義兄が自分を引き寄せて自分のガラケーを構えて自撮りを試みている。
「ありがとうございます、兄様。」
「こういう経験も悪くない。ところで」
「はい。」
「この電話はどれがシャッターだ。」
文緒はついクスリと笑ってしまいながら本体側面の小さなボタンを指し示した。
勿論文緒は約束通り友にその写真を送った訳だが若利の所にも送らされた。不思議に思ったが後で若利が語った所によると文緒の愛らしさを残すのも悪くないと思ったらしい。
そうしてやっと兄妹は外へ繰り出した。 でかいのがノシノシと華奢なのがポテポテと歩く様は対照的すぎてかなり笑える。
「今日の催しは何だったか。」
「ボヘミアングラスです、兄様。」
「そうか。」
「プラハから来たのだとか。」
「そうか。」
「ボヘミアングラスは私も初めてなので楽しみです。」
「他はあるのか。」
「小さい頃にビードロの展覧会になら。後他にもいくつか。」
「そうか。」
「兄様は」
「機会がほとんどない。お前がいなければ行く事はなかっただろうな。」
「そうでしたか。」
「何事も経験だ。」
「そうですね、兄様。」
全く盛り上がっているように見えない道中の会話、少なくとも若利は満足そうであり文緒も何も言わない。
「向こうは混んでいるでしょうか。」
「わからない。ただ休みの日だ、道中が危ない。」
言って若利はぐいと文緒の手を掴む。
「川西に言われた事を忘れる所だった。」
「まだ人の多い所ではありませんが。」
「念の為だ。」
そのまま若利はしっかり文緒の手を握ったまま離さない。それはいいが歩みを調整しなかった為に文緒は少々引きずられたみたいになってしまう。
気づかないまましばし若利は義妹の手を引き、義妹がこけそうになった所でやっと気がついたのだった。
次章に続く