第9章 ・お出かけします その3
そんなこんなで出かける当日になった。
携帯型映像機器のアラームで起きた文緒は眠い目をこすりつつ顔を洗いに行く。洗面所で顔を洗っていると重たい足音がして若利がやってきた。
「おはようございます、兄様。」
「おはよう。」
「もうすぐ空きますからお待ちくださいね。」
「焦る必要はない。まだ余裕がある。」
「はい。」
言って文緒は濡れた顔を拭く。顔を上げると鏡に映る若利が自分を見つめていた。
「兄様。」
不思議に思って声をかけると若利はいやと呟いた。
「朝の支度をするお前を見るのが珍しいと思った。」
「いつもは時間が合いませんものね。」
「そうだな。」
「はい、私は終わりましたから兄様どうぞ。」
「ああ。」
文緒は場所を空けてポテポテと自室へ向かう。その後ろ姿を義兄がじっと見つめていた事は知らない。
勿論その後は着替えたり朝食を食したりして、しばらくすると2人はすっかりでかける支度が出来た。
「お待たせしました、兄様。」
文緒がパタパタと自室から出てくる。
「さほど待っていない。」
「そうですか。」
「他は知らないがお前は比較的支度が早いと思う。」
「それは何よりです。では」
文緒はでは行きましょうと言いかけたが若利がじっと見つめている事に気づいた。
「兄様、あの」
困惑してどうなされましたと言おうとする前に若利が口を開いた。
「化粧をしているのか。」
「少しは紫外線防止になるかと思ってお母様から頂いたファンデーションを塗りました。」
「母さんが。」
「誤って自分には白過ぎる色を買ってしまったそうです。学生の化粧は最近珍しくないので使うといいと仰ってました。」
「そうか。」
文緒はまさかと思う。
「塗りすぎていますか。」
「いや。」
若利は呟いた。
「いつも肌が白いからどちらかわからなかった。」
「あら。」
「唇は。」
「色のつくものは塗っておりません。」
「そうか。」
呟く若利の様子は珍しくバツが悪そうである。よくよく見ないとわからない程度ではあったが。
「そっちもよくわからなかった。」
「お気になさらず、兄様。」
文緒は微笑む。
「そうか。」
言って若利は少し考える様子を見せた。