第42章 ・雪うさぎと雪合戦
大変寒く雪が積もった日だった。
牛島若利がその日帰宅すると門の前に兎が二羽いた。勿論本物の兎ではない、雪ウサギだ。楕円にこんもりと盛られた雪に南天の葉の耳、赤い南天の実の目がついているのが2つ寄り添って門柱の前を陣取っている。なかなか愛らしい図だ。今家に小さな子供はいない。となるとこういうものを作りそうなのは1人しかいなかった。以前の若利なら特に興味を示さずそのまま家に入っただろう。だが今の彼はスマホを取り出して至極真面目な顔でそれを撮影するのだった。
辺りが暗かったのも相まってなかなか物凄い図であるが深く考えてはいけない。
暗い中撮影を終えて若利は玄関の戸を開ける。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ、兄様。」
いつも通り義妹の文緒が出迎えてくれた。少々震えている気がする。
「外は寒かったでしょう。」
「この節は仕方がない。雪はやんでいる。」
「そうですか。とりあえずお夕飯の用意をしてきますね。」
「母さん達は。」
「先に済まされました。後は私と兄様です。」
「そうか。ところで」
「何でしょう。」
「表に兎がいたが。」
ああとすぐ察する辺りは流石文緒と言うべきか。
「雪が積もったのを見てたらつい小さい頃を思い出しまして。気がつけば作ってしまってました。」
「そうか。」
若利はそれだけ呟きとっとと靴を脱ぎにかかった。
着替えて義妹と夕飯を終えると若利はいつも通り部屋に引き上げる。最近は母と祖母が先に夕飯を済ませていて義妹と2人で食べている事が多い気がする。母と祖母に意図があるのかないのかは微妙な所だ。
それはともかく部屋に引き上げた若利は早速スマホを操作する。呼び出されたのは先程門前で撮った雪ウサギの写真だった。