第40章 ・義兄、遠征中の話 終わり
そんなんで義兄の若利が戻ってくる前日となる。ん、と小さく呟きながら牛島若利が薄暗い部屋でスマホの画面を見つめている。画面に映るのは言うまでもなく義妹の文緒の写真だ。今日も文芸部の部長が1枚寄越してきたのだ。同室の選手がまた妹かと声をかけて若利はああ、と答える。
「今日も無事なようだ。チームと文芸部の連中が尽力してくれている。ただ文芸部の連中は文緒を玩具にしている気もする。」
言って若利は頼まれていないのに写真を聞き手に見せた。聞き手は首を傾げて何か問題がと聞く。
「俺が不在なのをいい事に文緒を飾り立てている。化粧を施していいとは言っていない。」
今日日珍しい事じゃないだろと言う聞き手に若利は眉根を寄せた。
「せずとも愛らしい。これ以上胡乱な奴の目を惹くのは困る。」
この遠征中に何度か義妹に関する若利の爆撃を食らっている聞き手はもはや悟りの境地に達していてただ微笑むのみだった。
更に時は経ちとうとう若利が帰る日がやってきた。
「そんなに落ち着いてないかな。」
放課後、文緒は文芸部の友にそう返す。そわそわして旦那の帰りが待ち遠しいのかと言われたのだ。
「特に考えてないつもりだったんだけど。」
言いながらも文緒の顔はほんのり赤い。友はニヤニヤして文緒の頭をくしゃくしゃし他の文芸部員も微笑んでそれを見ている。文緒の髪をくしゃくしゃしていた友は更に旦那に夕飯を作るのかと聞いてきた。
「だから旦那様じゃないってば。お夕飯は作るよ、今日もお母様とお祖母様がいないし。」
一体どういうタイミングなのかはよくわからないけれど。
「それより兄様が向こうで余計な事喋ってたっていう噂が本当なのかが一番気になる。」
呟く文緒の後ろで文芸部員達はコソコソとあの牛島(先輩)だしホントに喋ってんじゃないかと言い合っているが文緒は気づいておらず今日も知らない人に話しかけられたらどう返そうかと考えていた。